「いつか何もかも変わる」

ヨーロッパにやってきた貧しいアメリカ人の画家が、「いつかおれの傑作を描きあげたときには(when I paint my masterpiece)」と、カントリー調で歌う。傑作を描いたら、故郷のギリシャをみせてあげると少女が約束してくれた。ふたりでコロッセオに座って、ライオンとの残虐な戦いに思いをはせたりして、でももしその傑作が描けたなら、すべてがラプソディみたいにうまくいくはずだという。

週末の午後、台所を掃除しているときに、ストリーミングで流れてきて、へんな歌だと思いながら、ところどころしか聞き取れない歌詞をぼんやり追っていた。その曲の最後の方で、「いつか何もかも変わる/その傑作ができたなら」と歌っていて、この「いつか何もかも変わる(Someday everything’s gonna be different)」というのを聞いた時に、思いがけず感情があふれて、冷蔵庫のドアを拭きながら泣いてしまった。そのうしろにある耐え続けることしかできない生活のこととか、どれだけの人が同じ希望に支えられて一生を終えただろうかとか、この根拠のない希望の残酷さとか、それでもこの希望にすがらざるを得ない人間の心とかが一気に押し寄せてくる感じで、私もやっぱりどこかでそう願いながら生きていると思う。

曲自体はむしろ陳腐で、何度も聞き返したくなるようなものではない。歌詞を理解してそのストーリーに感動したというよりは、ただこの「いつか何もかも変わる」というフレーズ、何か奇跡が起きてすべての苦痛から解放され、幸福がやってくるという願いの形が、曲の文脈から切り離されて浮かび上がり、私にも急にふりかかってきた。暗いニュースばかり見るせいか。ボブ・ディラン作詞・作曲(1971)。Wikipediaには、レオン・ラッセルがプロデュースしたと書いてある。ザ・バンドが歌うのを聞いたけど、ボブ・ディランの歌う方では少し歌詞が違うものがある。

コメントを残す